仮説思考力を強化する指導
「教える」ではなく間違えても良いので「想像させる、発言させる」
2022年5月15日
最近、仮説思考力の強化に取り組んでいる会社が増えています。
お客さんの状況や課題の仮説を考えて、提案したり、戦略を考える営業を進めるために。
しかし、お客さんの仮説を考えることはなかなか難しい。
仮の説を想像し考える仮説思考力を身につけさせるためにはどうしたらよいのでしょうか。
ある会社の営業部で仮説提案に取り組んでいました。
ご案内営業や御用聞き営業から、仮説を考えて提案する営業に変えようとして。
そしてある日、営業担当Aさんが営業部長Bさんに相談していました。
営業担当Aさん
「飲食店を経営しているセントコーポレーションの仮説提案を考えたので相談したいのですが」
営業部長Bさん
「いいよ、どんな仮説を考えたの?」
Aさん
「今まで駅周辺のお店が多かったんですが、昨年から郊外の出店を増やしているみたいです」
「そうすると客層が変わるのでメニュー改善が必要になると思うんですけど」
「だから来店者分析のニーズがあるんじゃないかと思いまして」
Bさん
「そうなの?なんで郊外の出店を増やしているの?」
Aさん
「在宅勤務が広がったから郊外に出店しないとお客さんが入らないと思うんです」
Bさん
「お客さんに確認した?」
Aさん
「いえ、まだ聞いていません」
Bさん
「聞いてこいよ、なんで聞かないの?」
「セントコーポレーションは3年前から郊外に出店しているよ。だからテレワークが広がったからじゃなくて駅周辺の競争が激しいからだよ」
Aさん
「そうだったんですか」
「客層が変わってると思うのでメニューの改善で来店分析のニーズがあると思うのですが」
Bさん
「お客さんに聞いた?」
「おそらく3年前から郊外に出店してるから、来店者分析なんてすでにやってるよ」
Aさん
「そうなんですか・・・」
Bさん
「提案したいなら、お客さんに聞いてこいよ」
「メニュー改善が必要か、あと、来店者分析をやっているかも聞いてくるように」
「お客さんのことはお客さんに聞かないとわからないだろう」
Aさん
「わかりました」
「来週に商談が入っているので聞いてきます」
1年後のAさんは、
「お客さんのことはお客さんに聞かないとわからない」
「間違っていることを言うと、否定されて信用をなくすかもしれない」
お客さんの状況や課題を想像せず、お客さんに教えてもらうだけの御用聞き営業になっていました。
Bさんの指導には仮説思考力を阻害する2つの大きな問題があります。
それはなんでしょうか?
仮説とは、ある情報から仮に立てる説であり、実験や検証を通して定説(事実)にするものです。
つまり、仮説とは、間違えている可能性のある説です。
営業活動では、お客さんにぶつけて、その反応で正しい情報を把握するものであり、間違えていて良いものなのです。
また、収集した情報から想像を膨らませ発展させ何らかの説を考えるものです。
つまり、収集した情報に対し間違えても良いので想像を膨らませ、考えを発展させることが大切なのです。
営業部長Bさんの指導はどうだったでしょうか?
問題点の1つ目「なんでも聞きにいかせる」
Aさんは、
「昨年から郊外の出店を増やしている」という情報から
「客層が変わる」、「メニュー改善が必要になる」と想定し
「来店者分析のニーズがあるんじゃないか」という仮説を考えようとしていました。
このAさんに対してBさんは、
「なんで郊外の出店を増やしているの?」「お客さんに確認した?」「聞いてこいよ、なんで聞かないの?」
とすべてお客さんに聞きに行かせようとしています。想像させるのではなく・・・。
挙句の果てに、
「お客さんのことはお客さんに聞かないとわからないだろう」
と想像することをやめさせる指導をしています。
問題点の2つ目「否定する、教える」
「来店者分析なんてすでにやってるよ」
とAさんが考えた仮説を否定しています。
そして、
「3年前から郊外に出店し ているよ。だからテレワークが広がったからじゃなくて駅周辺の競争が激しいからだよ」
と答えを教えています。
その結果、Aさんは想像すること、考えることをやめてしまいました。
自分で考えても間違えている。
間違ったことを言うと否定される、信用をなくす。
自分で考えなくても教えてもらえる。
仮説思考力を強化したいのなら、収集した情報から想像させ、考えさせなければなりません。
「昨年から郊外の出店を増やしている」という収集した情報に対し、「在宅勤務が広がったから郊外に出店しないとお客さんが入らないと思うんです」と想像したのなら・・・
上司
「そうなんだー、たしかに在宅勤務が増えると駅前の店舗は厳しいだろうな」
・・・同調して考えやすい、発言しやすい雰囲気を作り、
「駅前と郊外だと客層が変わるの?」
・・・ネタを振りながら想像させる。
Aさん
「そう思いますよ」
「駅前だと、学生や社会人中心だけど、郊外だとファミリー層が増えていると思うんですよ」
上司
「たしかにそうだよな、俺も部下と飲みに行くときは駅前のお店だけど、郊外の自宅の近くの店は家族と行くからな」
「でも、セントコーポレーションって居酒屋チェーンだろう。子供連れたファミリーが行くのか?ファミリー層は増えていないんじゃないか?」
・・・否定は同調してからすることでソフトにする。
・・・あえて間違っていることを言って発言を促す。
Aさん
「いや、最近はそんなことないですよ。居酒屋に子供連れている人が多いですよ」
上司
「そうなんだー、子供向けのメニューもあるの?」
「そしたら メニューも変わりそうだな、うちの方は中流家庭が多いけど、世田谷あたりは高所得の家庭も多そうだし」
・・・ヒントになる情報を入れてさらに想像させる。
Aさん
「そうかもしれませんね」
「そうしたら、駅前と郊外だけでなく、郊外も地域によってメニューを変えるのかな」
「本部やエリア単位でなくて店舗ごとにも来客分析する必要があるのかも」
仮説思考力を強化するためには、「間違えても良いので想像させる、発言させる」が大切です。
そのためには、教えずに・・・
・同調して考えやすい、発言しやすい雰囲気を作る
・ネタを振りながら想像させる
・否定は同調してからすることでソフトにする
・あえて間違っていることを言って発言を促す
・ヒントになる情報を入れさらに想像させる
課題解決型営業や戦略営業とご案内営業、御用聞き営業の最も大きな違いは想定力。
お客さんの状況や課題を想定する力。
ご案内営業は、商品を説明して買ってもらう営業。
お客さんの状況や課題を想定する必要がありません。
御用聞き営業はお客さんの状況や課題、要望を聞いて対応する営業。
想定しないで聞いてくればよい営業です。
課題解決型営業は、お客さんの状況や課題を想定し提案する営業。
戦略営業は予算や組織などお客さんの状況を想定し、受注を獲得する方法を考える営業。
課題解決型営業も戦略営業もお客さんの状況と課題を想定することから始まる営業であり、お客さんのことを想像する力は不可欠です。
様々な会社の営業部を見ていると・・・
正確性にこだわり、間違っていることを否定し部下に考えさせず「教えてしまう」、想像させるより「聞きにいかせる」という指導が多く見受けられます。
効率化や短期間、短時間で成果を上げることにこだわりすぎて、手っ取り早く「教える、聞きにいかせる」指導ばかりになり、「想像させ、考えさせる」指導が減っています。
しかし、今日の課題解決型営業や戦略営業には仮説思考力が必要です。
教える、聞きにいかせるではなく、間違っていても良いので想像させ、発言させましょう。
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