駆け引きによる交渉
駆け引きするなら要求の背景・影響を把握し材料を準備する
2019年10月15日
価格、機能、納期、契約内容や条件・・・
はじめから顧客の要求と自分の意向がぴったり合っていれば楽なのですが、そんなことはあまりない。
自分 は定価で売りたい、でも顧客は価格を下げたい。
「なんとか予算をとってもらえませんか」「定価でお願いできませんか」とお願いばかり・・・結局、顧客の言いなりになって値引き。
長年主力サービスとして販売してきたホームページ制作の営業担当者Aさんが価格で顧客ともめていました。
会社に戻って上司のBさんに相談。
Aさん
「定価の100万円を伝えたら「予算が70万円しかない」と言われてしまって・・・値引きできないですか?」
Bさん
「言いなりになってちゃだめだろう。ちゃんと交渉しろよ」「商売なんだから仮に値引きするなら何か勝ち取れよ。ただ値引きするだけじゃだめだよ」
再度、交渉しに顧客を訪問しました。
Aさん
「100万円でお願いしたいんですが、なんとかなりませんか?」「原価ぎりぎりなので値引きは難しいんです。お願いします」
顧客担当者
「前回お話した通り70万円しか予算がないので難しいです」
Aさん
「そうですか、わかりました。そうしましたら・・・」と上司に指示 されたとおり何かを勝ち取ろうと思い交渉しました。
そして、会社に戻り上司に報告。
Aさん
「やはり、予算がないので70万円じゃないと難しいようです」「その代わり、うちのプロモーションの事例で使わせてもらうことを承諾してもらいました」
Bさん
「それ、意味ないだろう」「新商品のプロモーションならまだわかるけど、長年販売しているホームページ制作のプロモーションに事例を出しても意味ないだろう」
Aさん
「でも「何か勝ち取れよ。ただ 値引きするだけじゃだめだ」って言ったじゃないですか」
ここで、Aさんの交渉について問題点を考えてみてください。
問題点1つ目
Aさんは、プロモーションの事例で使わせてもらうことを勝ち取っているのでしょうか?
価格について
Aさんは定価の100万円で売りたい、顧客は70万円で買いたい・・・Aさんの負け
プロモーションの事例について
Aさんの会社は必 要ない、顧客に損はない(どうでもよい)・・・勝ちも負けもない
つまり「0勝、1敗、1どうでもよい」というところです。
勝ち取るということは、自分にとって価値があり、相手にとって損になることを得ることです。
Aさんの場合は、プロモーションの事例というどうでもよいことを交渉の材料に使って、値引きという損だけ残ったということです。
単に譲ってあげただけなのに、価格で譲りプロモーションの事例で譲ってもらったという50対50の立場になり、価格を譲って恩を売ったという立場や関係まで捨ててしまいました。最悪です。
問題点2つ目
Aさんは、顧客に対して交渉したのでしょうか?
「原価ぎりぎりなので値引きは難しいんです。お願いします」
交渉ではなく、ただお願いしているだけです。
価格交渉の場面で、「原価が高いので」「会社が値引きを承諾してくれないので」「他のお客さんにも値引きしていないので」・・・「だからお願いします」ということをよく聞きます。
「原価が高い」「会社が承諾してくれない」「他のお客さんにも値引きしていない」というのは顧客にとって関係のないことです。
これは、自分の事情を説明してお願いしているだけです。価格交渉ではありません。
交渉とは、自分と相手の意向が相反しているときに話し合うこと。
駆け引きとは、相手の状況や出方に応じて、自分に有利なように事を運ぶこと。
営業の交渉における駆け引きとは、顧客との話し合いで、顧客の状況や出方に応じて自分に有利なように事を運ぶこと(自分の意向に沿った合意を得ること)。
この駆け引きでは、取引に関するお互いの重要度の比較を前提にして4つのことを考える必要があります。
・自分と相手の要求(意向)の差
・要求の背景(理由)の比較
・要求に対する相手方の影響の比較
・自分と相手がその他に欲しいと思っていること(交渉材料)の比較
※ 資料ダウンロード「交渉方法検討シート」参照
Aさんの場合
ホームページ制作という取引に対する自分と顧客の重要度を比較したあとで
①.要求を比較し差を明確にする
自分の要求
「定価の100万円」
相手の要求
「予算の70万円」
②.双方の要求の背景
自分の要求の背景
「構成やデザインの質を重視し、外注せず正社員で制作しているため原価が高い」
顧客の要求の背景
「費用対効果を重視しているため低価格で制作したい」
③.要求に対する相手方の影響を比較する
自分の要求に対する顧客の影響
「100万円では上司を説得することが難しい」「構成やデザインの質を確保することで費用対効果を上げることができる」
顧客の要求に対する自分の影響
「70万円では利益が出ない、外注を使わないといけなくなる」「利益が上がらないとアクセス解析サービスなどの新規事業投資に影響する」
④.自分と相手が要求以外に欲しいことを洗い出し比較する
自分が欲しいこと
「制作のボリュームを減らし原価を抑えたい」「継続的な取引が欲しい」「新規事業の取引先の獲得したい」
相手が欲しいこと
「商品のプロモーションサイトも作りたい」「忙しくてできていないけれどアクセス解析もしたい」「他の担当者が会員管理の仕組みを改善しようとしている」
Aさんが①②③④を把握し比較していたらどのような交渉ができたでしょうか?
みなさんも考えてみてください。
「構成やデザインの質の重要性、外注した場合に質が落ちる可能性があることを理解させ、100万円の予算を確保させる」
「70万円という価格は譲るが、商品プロモーションサイトの案件を獲得する」
「70万円という価格は譲るが、アクセス解析の案件や会員管理の担当者の紹介を獲得し、新規事業関係の案件を獲得する」
Aさんは、なぜ交渉できなかったのでしょうか?お願いしかできなかったのでしょうか?
Aさんは、①の要求の差と②の要求の背景を把握していましたが、③の要求に対する影響を考えていませんでした。
そのため、「構成やデザインの質で費用対効果を上げられること、外注した場合に質が落ちる可能性があること」を説明し100万円の価格を勝ち取る方法を考えられなかった・・・
また、交渉の材料になる④の双方が要求以外に欲しいことを洗い出していませんでした。
そのため、70万円という価格を譲りながら「商品プロモーションサイトの案件獲得」「アクセス数解析の案件や会員管理の担当者の紹介獲得」など自分が得するよう事を運ぶことができなかった・・・
価格、機能、納期、契約内容や条件・・・お願いするだけ、顧客の言いなりになっている営業担当者が多く見受けられます。
その一番の原因は、顧客を知らない、考えられないことです。
駆け引きとは、相手の状況や出方に応じて行う仕事です。
「相手の状況や出方を知らない、考えられない」では駆け引きできません。
「顧客を知らない、考えられない」では
何について、どのように説明したら顧客が理解してくれるか
顧客に何を譲り、何を勝ち取るのか
という駆け引きを考えることができません。
営業では、はじめから顧客の要求と自分の意向が合っていることは稀です。
そのため、営業という仕事に駆け引きは必要です。
顧客の要求以外に、要求の背景や理由、要求に対する影響、その他に欲しいことを考え洗い出しましょう。
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