成功体験の共有は間違い
営業の成功体験はやり方の共有でなく「なぜ?」を考えることに価値がある
2021年8月15日
営業の書籍やコンサルティング会社の多くが「成功体験の共有」と謳っている・・・
そして、営業部でも「できる人のマネをしろ」「受注した時のやり方を共有しろ」
しかし、強化できない、売上が上がらない・・・
営業の成功体験とは何なのか?
あるWEB会議システム会社で3人の営業担当者が新商品の販売を任されていました。
WEB会議システムの画面上で様々な資料やデータを共有でき、営業会議で役に立つ商品です。
営業担当Aさんのお客さんは、人材紹介会社のセントコーポレーション(セント社)。
営業担当Bさんのお客さんは食品メーカーのリーディングカンパニー(リーディング社)。
営業担当Cさんのお客さんは日用品商社のアドバイス商事(アドバイス社)。
Aさんは3人の中でいつも営業成績が一番で、新商品も一番売れていました。
BさんとCさんはなかなか営業成績が伸びず、新商品も売れていない。
ある日、マネージャーが、
「Aさんが売れているのに、なぜBさんとCさんはマネしないんだ」
「Aさんも売れたときのやり方をBさんとCさんに教えて共有しなさい」
そして、BさんとCさんは、Aさんのやり方を教えてもらいました。
Aさんは、デモンストレーションを見てもらうことを重視して営業していました。
そのため、
・商品説明は簡単にして「少しで良いのでデモンストレーションを見ていただけるお時間をください」とお願いしていました。
・お願いした後で、営業会議でどのような資料を使っているかを聞き出していました。
・そして、似たような資料を会社に戻ってから作り、その資料を使ったWEB会議システムのデモンストレーションを見せていました。
「午前中、午後、夕方のいつが一番忙しいかを聞いてから、忙しくない時間に15分ぐらい見てもらえないかとお願いしている」
「とにかく見てもらうことが大切なので多少強引にお願いしている」
とお願いする方法を教え、
「営業会議で使っている資料について、エクセルかパワーポイントか、また、資料の内容や細かさを聞いている」
と聞き出す資料の内容を教え、
「15分のデモンストレーションを見せた後に、他社の事例を説明」
とデモンストレーションの進め方を教えました。
そして、BさんとCさんは、Aさんに教わったやり方をお客さんに実践。
その結果・・・
Bさんは、デモンストレーションを見てもらえるよう多少強引にお願いしてみると、それまでは楽しそうに話していたリーディング社の担当者に「必要ない」と不機嫌そうに断られてしまった。
Cさんは、アドバイス社にデモンスト レーションを見てもらうことは約束してもらえましたが、資料については教えてもらえず、デモンストレーションはWEB会議システムの画面を見せただけで終わってしまった。
なぜ、Aさんは成功したのに、BさんとCさんは失敗してしまったのでしょうか?
営業という仕事は様々な要因に影響される仕事です。
・営業担当者の説明やヒアリングの内容や方法、その順番
・営業担当者の話し方や聞き方、お客さんとの関係性
・お客さんの状況や課題
・お客さんの予算や計画
・お客さんの担当者の性格や考え方
・お客さんの担当者の環境や仕事の忙しさ
・お客さんの担当者の上司や決裁者、社内の人間関係
・競合他社の提案や商品力
・ ・・・・・
そして、これらは複雑に絡み合って影響し合い、成果が変わってしまいます。
説明やヒアリングの内容や方法は、
お客さんの状況や課題、お客さんの担当者の性格や考え方に影響され成果が変わり、当然、営業担当者の話し方や聞き方も影響します。
お客さんの状況や課題が全く同じで、お客さんの担当者の性格や考え方も全く同じ、そして、同じ性格で同じ話し方の営業担当者がマネをするのであれば有効でしょう。
しかし、そんなお客さん、そんな営業はいません。ほとんど異なります。
状況や性格が異なる他のお客さんに対し、性格や話し方が異なる他の営業担当者がやり方をマネしても通用しません。
では、営業の成功体験にはどのような価値があるのでしょうか?
成功体験は「なぜ、成功したのか?」によってお客さんを考えることに価値があるのです。
Aさんは・・・
なぜ、デモンストレーションを見せることができたのか?
なぜ、営業会議で使っている資料を教えてもらうことができたのか?
なぜ、資料を使ったデモンストレーションを見せ、他社の事例を説明することで受注することができたのか?
セント社の担当者は・・・
・営業部と仲が良くWEB会議システムを入れて欲しいという話を聞いたことがあった
・営業部と仲が良いのですぐに資料を教えてもらうことができた
・説明した他社の事例と同じ課題を抱えていた
「なぜ、成功したのか?→Aさんがうまく説明できたから・・・だからマネしよう」ではなく、
「なぜ、成功したのか?→お客さんの担当者と営業部の仲が良かったから」
とすると、Aさんの成功したやり方をマネするのではなく、
・お客さんの担当者だけではなく、営業部を説得する方法を考える
・営業部を紹介してもらう方法を考える
・お客さんの課題を把握する方法やお客さんの担当者に課題を理解させる方法を考える
営業方法の正解は、成功した人のやり方にはなく、お客さんの中にあるのです。
そのため、成功したやり方ではなく「なぜ、成功したのか?」によってお客さんを理解することが大切なのです。
そして、お客さんというのは単純なものではありません。
セント社の担当者の「WEB会議システムを入れて欲しいという話を聞いたことがあった」という情報の裏側には様々な事情があります。
「事業エリアを拡大するため地方に営業所たくさん作ったので、営業全体で会議をやりづらくなっている」
もう一歩突っ込んで・・・なぜ、営業全体で会議が必要なのか?
「新規事業を拡大するために、営業本部が全営業所の進捗を管理し指導している」
すると、新規事業を進めているからWEB会議システムを買ったのかもしれない。
であれば、
新規事業を進めている企業をターゲットにWEB会議システムの提案を進めると効率的に売上が上がるかもしれない・・・
この複雑なお客さんを理解することで、営業の正解が見えてきます。
そのためには、「なぜ?」を繰り返しお客さんのことを深く考えることが必要です。
単純に成功したやり方をマネしようとしてうまくいかない営業部、
また、「なぜ?」を考えても「営業全体の会議をやりづらいから」と表面的にしか考えず成功体験をいかせない営業部、
成功体験をいかせず強化できない、売上が伸びない営業部が多く見受けられます。
営業の成功体験はやり方を共有するのではなく、「なぜ?なぜ?なぜ?・・・」を繰り返してお客さんを理解しましょう。
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